「ブラックリスト」は差別用語になるのか?

一連の BLM Movement (世界的に広まった Black Lives Matter)の流れで、私たちの社会で慣例的に使われてきた言葉の中から、奴隷制度を連想させるものは葬り去り、死語にしてしまおう、という機運が、ここにきて再び高まっているようです。「再び」と書いたのは、少なくとも ’00年代には、既に、言葉の見直しを検討していた人たちが少なからずいたからです。


やり玉に挙がっている単語のブラックリストの中には、IT 用語である Master/Slave も含まれています。記憶媒体の構築などに関してよく使われる用語ですが、これらの用語を他のワードに置き換えよう、という動きがある、ということです。


既にPythonでは、"slave"を”worker”・”helper”に、"master process" を”parent process”に置き換えていますし、他社でも、ソフトによっては ”slave" を "minion"という単語に変更したものもあります。代替えの候補には、他にも、Twitter 社が押している replacement words は "leader"/"follower"、"primary"/"replica"、"primary/standby" などがあります。


一般的に考えて、何かを変える時、それを局所的にだけ変えるというのは、実はなかなか難しいものです。


例えば、一軒家である部屋だけを改装しようと思い立っても、そこだけ改装すると、その部屋だけが他の部屋と一体感がなくなり、結局全部の壁紙を変えたとか全体的にペンキを塗り替えた、という結果になるケースがままあります。雰囲気が変わってしまって、最初の内は「馴染めない」という不満も家族の一部から出るかもしれません。


しかし、本当に変えなければいけない必要性を感じている人は、何があっても変えよう、変えたい、と強い意思を以てアクションを起こします。逆に言えば、そうでないと変化は望めません。慣性の法則というのは、なかなか手ごわいものです。


”master"/"slave" の代替えの言葉探しに関しても ハードの世界だけ、とかではなく、ソフトの世界のことも考慮しなければなりませんし、英語だけでなく、他の言語にローカライズした際でも問題ないのか、など、言葉の専門家とIT系の専門家の意見を聞きながら、かなりのリサーチをする必要が出てくることが考えられます。例えば、"leader"/"follower"のペアは、何ら問題なさそうに思いますが、ドイツ語では都合がよろしくないようです。


Linux などでも既に使われている "source"/"sink" はどうか、という案もあります。が Linux に明るくない人からすると「Sink? え、何それ?」という感じで、直感的には ”sink” という言葉の持つ意味が分かりにくいかもしれません。


同じIT業界という大きな傘の下で、"host"/"client" や ”host"/"guest" のペアは既に使われていて、一般ユーザにも馴染みのある言葉ですが、これらはコンピュータ・ネットワークの分野の言葉です。一方で、電気信号の送受信では、これらの言葉より、"sender"/"receiver" 、 ”sender"/"receiver"、“controller”/"receiver" の方が一般的です。


このように one size fits all という訳には行かないのが悩ましい点で、それ故、代替えワードへの移行がなかなか進まぬまま今に至った・・というのが実情です。


しかし、今のBLM のムーブメントのもつ力は強いので、”言葉狩り”・・と言うか、言葉の使い方の見直しは、不可逆な流れであることは否めません。


そして個人的には、これは人類の精神性の向上とも捉えることができる、と感じています。


最終的に、どのワード・ペアが主流になっていくのか、今後の行方が気になりますね。


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実は、"ブラックリスト" という言葉に関しても問題提起されています。


”blacklist" という言葉は、”whitelist” という言葉と対になっていますが、この『黒は悪で白は善』という固定観念が、黒人を劣等差別する思考を助長している、という指摘があるのです。”blacklist” は ”blocklist” に、”whitelist” も ”allowlist” などの代替えワードに置き換えるべきではないか、という訳です。


「過剰反応なのでは?」と思う方もいるかもしれません。 そうかもしれません。


ですが、"master"とか "slave" とか "black" のような言葉を聞く度に、苦い思いをする人が、この地球上に沢山いるのだとしたら、そして、私たちが、何気なく言葉を話すことを通して、差別というものを自分や周りの人たちに植え付けているのだとしたら、仮に最終的に代替えが決まらなかったとしても、このタイミングで立ち止まり、考えてみること それ自体に価値があるのではないでしょうか。みなさんは、この件、どうお考えでしょうか。


ゴルフの Masters も名称変更した方がいいのでは? という疑問も湧き始めました。

この流れが進むとしたら、今まで馴染んでいた "toastmaster" や "winemaster” といった言葉たちの余命も、そう長くないのかもしれませんね。


最後まで読んで下さり 有難うございました。







写真提供:きなこもちさん https://www.photo-ac.com/profile/250461"

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